第1章 休日勤務の告白
「というわけで、私はあなたがこーんな小さかった頃からずっとそういう気持ちを抱いていたわけです、あなたに」
突然の口付けに茹蛸状態のエルを正気に戻し、ひとまず文官の執務室の横に備え付けてある休憩所に移動してからジャーファルは自分の気持ちを言葉で全部伝えた。
「………なん………え、」
「今でもそういう目で見てるっていうか、年々気持ちは大きくなっていくんですけど。まぁ、そういうことです」
「あ………っ………う、嬉しい……です……っ、」
思いがけない結果に喜びを隠し切れず、エルの口角は不自然につりあがっている。
ジャーファル本人は目立ってなどいないつもりだろうが、あのシンドバッドの右腕として文に武に長ける、人当たりもよく、ましてや物事の細部や女性への気配りなども完璧で、見た目も悪くない彼を放っておく女性など宮中にあまりいない。
気持ちを伝えられただけ自分は恵まれていると思ったのに。
まさかこんなことになるとは。
俯いたまま頬を染め驚きと嬉しさと口付けの余韻に浸るエルの様子を見て、ジャーファルの心にひとつ、よくない気持ちがうまれた。
「そういうわけだからね、エル」
「ふぁい!?」
突然呼ばれて飛び上がるエル。
「今まではエルの気持ちが私に向いてるなんて夢にも思わなかったし、私から気持ちを伝えるつもりは全くなかったけどね、」
「……はい」
「相思相愛だとわかったからには、ね」
「……はい、?」
ジャーファルが何を言おうとしているかエルには全くわからなかった。
そんなエルを差し置いて、ジャーファルは向かい合って座る位置から隣席へ移動して距離をどんどんつめてくる。
「まぁ……エルも18なことだし」
「………」
「私も十分すぎるほど待ったし……」
「……………」
「そろそろ頂いても、ばちは当たらないでしょう」
「……………あの」
「幸い今日は任意出勤の日で他の文官は休みでしたから、誰か忘れ物でもしてない限りここに人が来る事はまずないですし」
「あの」
「だから」
「ジャーファルさん」
まずい。なんかデジャヴだ。というよりこの流れは。
そう思った時には既に遅く。
「いただきます」
気づいたら休憩所のソファーの上で押し倒されていたのだった。