第5章 黄緑
「チョロマツ様ぁっ!!」
天使は神を、「様」付けをして呼ばなくてはならない。
それは物心ついた時からの約束で、弟は兄に、「様」付けするのを嫌がった。だがもうそれはとうに昔の話で、今は当たり前のように兄に「様」を付けて話している。
「今は一人だから。様付けなくて大丈夫だよジュウシマツ。」
でもむず痒いのは未だに嫌で、兄弟だけなら、様付けを抜いて喋っている。
「えっと…チョロマツ兄さん!!大変なんだ!」
「どうしたの?」
「イチマツが、魔界に堕ちた……!」
その瞬間、チョロマツの思考が停止した。
だが、一瞬のことだった。これで四回目。悲しいのは事実だが、この程度で哀れんでいてはこのせかいで生きて行けない。
だから
「そうか…ジュウシマツ、もう僕ら二人だけしかいない。ジュウシマツはお願いだから、僕を一人にしないでね……?」
「ッ……、はいっ!」
ジュウシマツとチョロマツは、笑った。
兄弟を失って、泣きもせずに笑う二人。
いくら四回目だからって、こんなのは異常だ。
ようは兄弟が自殺したのに。
それなのに、笑う。狂ったように笑う。
まるで、二人の薇が切れたかのように。