第4章 愛情
「そっか、元気なら良かったよ。」
「……でも、お前がいなくなってからジュウシマツ、変わった。」
「え?」
「俺の事を、嫌った。」
イチマツの、喉の奥から、放たれる声。
正確には涙ぐんだ、とでもいっておこうか。
イチマツは、ジュウシマツを愛していた。
それは単純な兄弟愛ではあるが、それでもジュウシマツだけは群を抜いて愛していた。
されども、ジュウシマツが愛していたのは、イチマツだけではなかった。
イチマツだけではなく、他の兄弟も平等に愛していた。
それは天使として基本のこと。だが、イチマツはそれが出来なかった。
__僕には、全員を平等に愛すという器用なことが出来ない。
僕には、彼しか愛せない。
『愛』と言うのは実に重く、実に壊れやすいモノであった。
その『愛』に囚われ過ぎたイチマツにとっては、愛していたジュウシマツに嫌われるのは、
___愛した人に嫌われるのは、どんなに辛いことなのだろう。
トドマツはその事を承知で、問いかけた。
「…それが、イチマツ兄さんが堕ちた理由?」
イチマツは静かに頷いた。
イチマツは多分、堕とされた訳じゃなく、自ら堕ちたのだろう。
その解釈は、案の定当たっていた。
ようは、自殺のようなものだ。
『天使』として、生きる事を止めたのだから。
そして新たに『堕天使』として生きる事を決意したのだろう。
愛されなかった天使は、堕天使へとかわる______