第4章 愛情
魔界へ堕ちて、もう幾月。
まだ慣れない身体は、体調不良で、いつまでたっても精進出来ない。
この歪んだ世界で、生きるのは難しいのだ。
「…トドマツ、いる?」
久しぶりに自分の名前を聞いた気がする。
その低い声は苦く、されどもどこか憎めないその声は…………
「…イチマツ兄さん?」
はたして彼を兄と呼んでもいいのか。
人間界で言うと実に10年ぶりの再開だ。
その兄の顔は、黒い衣を纏い、まるで立派な悪魔だ。
__天界でも、悪魔のような顔をしていたが。
「……久しぶり、兄さん。どお?元気にしてた?」
話す言葉が思いつかなかったため、とりあえず取って付けたような単語を並べた。
「……元気にしてた。ジュウシマツや、チョロマツ兄さんも、元気だったよ。」
神である三男、チョロマツ。
彼は天界の頂点、天照に直属仕える神だった。
なぜ、長男と次男を差し置いて三男かと言うと、彼が兄弟で一番優秀であったからだ。
長男は神である立場を弁えず、好きなだけ悪さをしては子供のように嘲笑う奴だった。
次男は、長男よりかはマシだっただろう。だが、彼は神になることを望んではいなかった。人間願望がある神に、天照に仕える権利などない。だから、三男であるチョロマツが神になったのだ。二人が堕ちたのなら、尚更に。
ジュウシマツは、六兄弟の五男である。
神の兄とは違い、天使として生まれた彼だが、その無邪気な笑顔は太陽のように、その優しさは丸で日だまりのような、そんな天使だった。
また、天使の中でも優秀で、天界の人気者だった。
そんな優秀な二人。
その二人が、後に悪夢を生み出すだなんて、
この時は誰も知る由もなかっただろう………