第3章 はみだし者のバラッド (R18:田中龍之介)
空はどうして青いのだろう。
ああ、青い。
果てしなく。
見渡せばそれは限りなく続いていて、そのはるか上空では秋の雲が気持ちよさそうに泳いでいた。
眼下には紅葉。
葉を色付かせたそれはフワフワと、なんだか美味そうな形になって風に揺れている。なんだっけあれ。ああ、そうだ。
「田中先輩! 見て!」
「んあー?」
「あの木、りんご飴みたい!」
ぎゅる、と腹の虫が鳴く。
珍しく詩的な気分に浸っていたのに、やはり空腹には敵わないらしい。まさに花より団子。食べざかりの男子高校生なんて大体そんなもんである。
「りんご飴か〜……食いてえなあ」
「じゃあ食べにいこう!」
「はあ? 食うって、どこに」
サア、と駈けぬける秋風。
ころころと喉を鳴らして笑う彼女は、絢香は、相変わらず天使のような笑みをみせて言った。
「青城の文化祭! お兄ちゃんがね、クラスでりんご飴のお店やるんだって!」
「えええ、青城かよォ」
「ねえ、行こうよお、ていうかもう決定。行くって決めた。今週の土曜日、駅前で待ってるね!」
キンコン、カンコン。
チャイムが鳴る。
新しい授業が、始まるのだ。
ぱたぱたと駆けていく絢香の足元には、真っ黒な上履きが誇らしげに輝いていた。
【了】
はみだし者のバラッド