第19章 幻怪(R18:月島蛍)
言葉なんて必要ない。
視線を交わすだけでいい。
心は、ひとつ。
あなたに触れたい。
あなたが欲しい。
ホテルへ向かう前に済ませるお洒落な食事も、ベッドに入るまでの駆け引きもいらない。
ただ互いを求めて、堕ちて、堕ちて。
「……っは、あ、……っん」
キスだけでこんなにも乱れるのはいつ以来だろう。疼く。腰が、花芯が。ぐずりと熱を上げていく。
灯りが絞られた部屋は甘やかな吐息に満ち、白く肌触りのいいシーツが幾重もの皺をつくって濡れていく。
「お姉さんの名前、聞いてもいい?」
首筋を這い降りていくキスの途中で、彼が囁いた。可笑しな問いかけ。
こうして肌を重ねているのに、私たち、互いのことを何も知らない。
「瀬野、といいます」
「それは予約表で見たから知ってる」
「ふふ、ごめん、……絢香よ」
ちょっと拗ねた声で返した彼の金髪を撫でて、その柔らかさに胸がくすぐったくなる。