第19章 幻怪(R18:月島蛍)
義母とうまくいっていなかった。
仕事を続けたい私と、女は家に入るのが当たり前だと考えている夫の母親。
どこにでもある嫁姑問題だ。
亭主関白。
男尊女卑。
それらが当たり前のように横行していた時代を生きた母なのだからと、夫は諭すように繰りかえす。
じゃあ私のアイデンティティは?
人生を捧げてきた仕事を奪うの?
私は、いつだってそう泣いていた。
どうせ理解なんかしてもらえない。私が折れなきゃいけないのも分かってる。でも、納得がいかない。
結婚したら女は家事子育て。
そんなこと誰が決めたの。
私が生きる意味を、奪わないで。
『ああいやだ! そんなに働いていたいなら結婚なんてしなければ良かったじゃないの!』
義母は金切り声でそう叫んでいた。
うちの息子が可哀想だわ!
最初から私は反対だったのよ!
思い出すだけで頭痛がする。
夫は義母の考えも尊重してあげたいと言うし、私の両親も「それが結婚だ」などと意味の分からないことを言う。
味方なんてどこにもいない。
不満だけが溜まっていく毎日。
積もりに積もったストレスが限界を迎えて、ついに爆発したのが昨晩だった。
「……平穏と安寧の日々、なんて」
ぼそり
自嘲ぎみに声をこぼす。
手にはスマートフォン。
タップする11桁。
涙が頬を伝いおちていく。
「……そんなの、……とっくに壊れてたじゃない」
夫とお揃いのティーカップ。
二人で過ごした幸せの証。
割れて、砕けて、粉々に。
ガシャンと何かが壊れた。
それは、愛が壊れた音だった。