第17章 代償(R18:孤爪研磨)
「──……っ!」
ドンッ!
無我夢中で突き飛ばしていた。
私のどこにそんな力があったのか分からないというくらい、渾身の力で、恐怖を原動力にして、彼を思いきり突き飛ばしていた。
離れていく身体。
解放される手首。
彼がわずか後方によろめいたのを確認すると同時に、二歩後ずさって、それから背を向けて走りだす。逃げなきゃ。全力疾走で。
早く、早く。
そう思えば思うほど足はもつれ、息はあがり、見知ったはずの院内が迷路のように行く手を阻む。
ここはどこ。
出口はどこ。
分からない、どっちへ進めばいいの。
──ミュンヒハウゼン症候群?
──正しく言えば、代理、ね。
脳内で渦を巻く言葉、台詞、声。
──ずっと会いたかった。
──敢えてひと言で表すなら。
記憶が混乱して、順序がバラバラで、支離滅裂な単語の羅列に変わっていく。
その少女が患っていたのは。かわいそうなクロ。おれっていい子。
自ら献身的に看病する。気を引きたいがための。褒められたい。わざと傷つける。友達思いの、いい子だから。
代理ミュンヒハウゼン症候群。でも、明らかに何かが違う。
──……また、会えたね。
ドクン!
心臓が、強く強く脈打った。
記憶の底から引きずり出される文字。めちゃくちゃだったはずのピースがカチリカチリと音を立てて嵌まっていく。
違う。
代理ミュンヒハウゼン症候群なんかじゃない。限りなく似ているけどそうじゃない。
あの子は、研磨くんは、──……