第17章 代償(R18:孤爪研磨)
「クロ、遅い、待つの疲れた」
足が引き止められる。
その声はまるで、磁力のように。
聞く者すべてを惹きつける中低音。
幼い子どものようだと思った。
あるいは、少女のそれか。
しかし視界に映るのは紛うはずもなく【少年】であり、彼は黒尾くんとおなじ鮮赤にその身を包んで立っている。
「おー、研磨」
「おー、じゃない、遅い」
「悪い悪い、あと会計で終わる」
「……てことは薬局もじゃん」
黒尾くんの同級生だろうか。
いや、それにしては見目の年齢が掛けはなれすぎている。
後輩にしては親しげだし、まあ、私が二人の関係を知ったところでどうなる訳ではないのだけれど。
「彼のお迎えかな?」
彼、と私が指したのは、慣れた様子でスマートフォンを操作している黒尾くんだった。
口頭で伝えた私の電話番号を登録している最中らしく、その画面には【瀬野絢香さん】と表示されている。