第17章 代償(R18:孤爪研磨)
「なあ、アンタ知ってる?」
そんな風に語りかけてくるのは、長身にアシンメトリーの黒髪が特徴的な少年だった。
短く整えられた眉。
キリリと切長の眦。
大人びた横顔の黒尾くん。ファーストネームは、たしか鉄朗くんだ。
ああ、あのリアクション芸人とおんなじの。そう口走った私にフルパワーでデコピンを仕掛けてきたのは、他でもなくこの鉄朗くんである。
「知ってる、って、何を?」
私は黒尾くんに跨ったまま問うた。
跨るといっても性的な意味ではない。きゃっきゃうふふで彼に跨っているのではなく、私はオシゴトとして黒尾くんを組み敷いているのだ。
風俗嬢なのではなくて。
理学療法士、として。
「ちょっと前に学校で流行った噂話なんだけど、って、痛ででで! ちょ、もうちょいソフトにお願いできません?!」
「男ならこのくらい我慢なさい」
「何その理不尽! 性差別反対!」
「私はジェンダーレス肯定派よ」
都内某病院にあるスポーツリハビリテーション科。それが私の職場である。
黒尾くんは患者さんだ。
彼と会うのは、今日で何回目だろう。
三回を過ぎたあたりから数えるのをやめてしまったから、分からない。