第16章 遊戯(R18:国見英)
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ふわと意識が浮上する。
春の朝霧のような香りに鼻をくすぐられて、ここが英くんの部屋なのだと理解した。
寝ちゃった、とか、私。
事後の彼をひとり放っぽらかして眠りこけてしまった自分を恥じた。これでもかと恥じて、上体を起こす。
腰がずくんと重い。
でも、愛おしい痛みだと思う。
「ごめんね、……私、寝ちゃって」
相変わらずバレー雑誌を読みふける彼。その美しい黒髪に向かっておずおずと言葉を紡いだ。
くる、り、英くんが気怠そうにこちらを振りかえる。
「ん、おはよ」
すっかり普段の様子に戻っている彼は、ひらひらと。その手のなかで灯らせたスマホを左右に振って、意地悪に笑んでみせた。
「さっきはごちそうさま」
なにかを含んだような物言い。
その真意が分からぬまま英くんの手中を見て。凝視して。それから「!!?」と声なき声で悲鳴をあげる。
「な、っそれ、私、いつの間に!?」
「ヤッてすぐ。だって寝んだもん絢香」
「かっ、貸して! 削除する!」
「やーだ、これ俺のたからもの」
そんなことを言ってのける彼のスマホには、あろうことか、甘い微睡みのなかに堕ちた──いやもう要するに半裸で寝ている事後の私が映っていた。
これを宝物にするって。
英くんの趣味嗜好が理解でき、る。
「ずるいよ英くんだけ! 私も撮る!」
「無理、俺撮られんのきらい」
「~~~! けち!いじわる!」
貸して!
やだ貸さない。
撮らして!
マジお断るわ。
そんな会話。他愛ない痴話げんか。
ちょっとひとには言えない三カ月記念日を過ごした私たちの距離は、以前よりもちょっとだけ、近くなったような気がするんだけど。
気のせいかな。
気のせいじゃない、よね。
憂鬱なブルーマンデーに愛をこめて、心から、この幸せに感謝を。
大好きだよ、私の意地悪カレシ。
遊戯【了】