第14章 衝動(R18:花巻貴大)
「貴大、ごめん」
「ん? 何が?」
「こんなにかっこよくて優しいイケメンが傍にいたのに、気付かなくてごめん」
吐息残るベッドのうえで。
俺の右腕を枕代わりにして寝転んでいた絢香が、ふと顔を上げてそんなことを言った。
乱れてしまった前髪。
彼女の目元に掛かっているそれをそっと払いのけてやって、俺は中指に力をこめる。
親指に引っかけていた爪を勢いよく解き放つと、パンッという小気味いい音のあとに、ギャッという奇声が彼女から挙がった。
要するにデコピンだ。
渾身のデコピンを、彼女にお見舞いしてやった。気づくのが遅っせえんだよ。そう言葉を添えて。
「痛ー……い」
「痛くされんの好きだろ?」
「それとこれとは別なの」
「それって何? これ?」
わざとらしく問うて齧りつく白肌。
その細い首筋に歯列を食いこませれば、彼女はたちまち蕩けて甘やかな嬌声を漏らす。
再度重なるのは二人の吐息だ。まだ疼いたままのそこが、今再びの快感を期待してぐずぐずと熱を上げていく。
瞳を潤ませている絢香に、その耳朶に、キスを滑らせて俺は──
「俺以外じゃイケない身体になるまで犯してやるよ」
衝動【了】