第14章 衝動(R18:花巻貴大)
【若者よ、非日常に憧れを抱け】
これはうちの事務所の社長が掲げている社訓である。
子供向け戦隊ヒーローショーという非日常空間を創りだす俺たち、スーツアクターは、誰よりもそれに焦がれていなければならない。らしい。
「お花巻ー、冷やしタオルー!」
「自分で取ってきてくださーい」
「うわ、ケチ! 可愛くねえ後輩!」
俺のことを「お花巻」と呼んで汗だくになっている彼、タタさん。
タタさんは俺をこの業界に誘ってくれた大学の先輩で、いまは一応上司だ。太田武史(おおたたけし)だから、タタさん。
気さくで良いひとである。
ガサツだし口悪いけど。
『おー、スゲエ身体してんなー!』
『…………はい?』
『絶対赤! レッド向きだわお前!』
これがタタさんとの出会い。
大学にある飲食ラウンジでのワンシーンだ。今でも鮮明に覚えてる。
青くさい春のすべてを捧げたバレーにさよならして、なんとなく入った大学。
勧誘された飲みサーになんとなく参加して、ゆるい友人たちとゆるい友情に浸かりながら授業をサボる日々。
あの日もそうだった。
その、はずだったんだけど。