第11章 灼熱(R18:牛島若利)
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「なん、……っで!?」
絢香さんとやらは泣いていた。
俄かには信じられないけれど若利くんも泣いていた、らしい。
そしてついでに俺も泣いていた。
もう大泣きだ。
涙ブワァッ、て。
「何で、どうして二度と会わなっ……会えばいいじゃんかよお……俺だったらその婚約者殺してでも奪うよ……!?」
ほぼ本音をぶつけてみる。
鼻詰まりの声でえぐえぐ言っていると、ふと、若利くんが笑んだ気がした。
小さな小さな笑み。
「金持ちには色々あるんだ」
「んぐうっ! ぐうの音しか出ない!」
「いいから鼻水を拭け、天童」
彼が貸してくれたハンカチはもれなく高級品で、敢えて野次るとすればバーバリーはちょっとオジサン臭いぞ若利くん。
まあ、これはそんなお話。
残り二ヶ月の青春を持て余した俺と彼の、どうしようもなく退屈な、とある昼下がりのお話だ。
いや、俺はすごく楽しめたけど。
「なあ、天童」
「んー? なあに若利くん」
「カラオケ行かないか」
「え? ……え!!?」
天変地異の前触れでも何でもなくて、ダイレクトに世界がひっくり返った。要するに俺がベンチから落ちた。
ビックリしすぎて。
だって、驚きもするでしょ?
「若利くんが!? 若利くんと!?」
「ああ、俺と天童、お前が」
「嘘でしょどうしたの熱あるの!?」
中庭の芝生に尻餅をついて焦りまくる俺。そんな俺のことを高い高い位置から見下ろして、若利くんは、今度はしっかりとその唇で笑みをつくった。
「謳歌するんだろ?」
「青春、ってやつを」
んん、こりゃ一本取られたね。
灼熱【了】