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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第11章 灼熱(R18:牛島若利)




 *


「なん、……っで!?」


 絢香さんとやらは泣いていた。
 俄かには信じられないけれど若利くんも泣いていた、らしい。

 そしてついでに俺も泣いていた。

 もう大泣きだ。
 涙ブワァッ、て。


「何で、どうして二度と会わなっ……会えばいいじゃんかよお……俺だったらその婚約者殺してでも奪うよ……!?」


 ほぼ本音をぶつけてみる。

 鼻詰まりの声でえぐえぐ言っていると、ふと、若利くんが笑んだ気がした。

 小さな小さな笑み。


「金持ちには色々あるんだ」

「んぐうっ! ぐうの音しか出ない!」

「いいから鼻水を拭け、天童」


 彼が貸してくれたハンカチはもれなく高級品で、敢えて野次るとすればバーバリーはちょっとオジサン臭いぞ若利くん。

 まあ、これはそんなお話。

 残り二ヶ月の青春を持て余した俺と彼の、どうしようもなく退屈な、とある昼下がりのお話だ。

 いや、俺はすごく楽しめたけど。


「なあ、天童」

「んー? なあに若利くん」

「カラオケ行かないか」

「え? ……え!!?」


 天変地異の前触れでも何でもなくて、ダイレクトに世界がひっくり返った。要するに俺がベンチから落ちた。

 ビックリしすぎて。

 だって、驚きもするでしょ?


「若利くんが!? 若利くんと!?」

「ああ、俺と天童、お前が」

「嘘でしょどうしたの熱あるの!?」


 中庭の芝生に尻餅をついて焦りまくる俺。そんな俺のことを高い高い位置から見下ろして、若利くんは、今度はしっかりとその唇で笑みをつくった。


「謳歌するんだろ?」

「青春、ってやつを」


 んん、こりゃ一本取られたね。







灼熱【了】
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