第10章 爪先にルージュを塗って (R18:赤葦京治)
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梅雨はどうしてこうなのか。
延々と降りつづく雨が、肌にじっとりと貼りつくブラウスが、実に不愉快だ。しかしそれ以上に不愉快なモノがある。
「どうしてだ、木葉……!」
非常勤講師の蒼井。
私を我欲のままに抱き、嬉々として蹂躙し、最愛に注ぐべきその子種をみだりに放出させていた男。セックスにしか興味がない男。
私、どうしてこんな男に身体を許していたのだろう。
「俺を捨てるのか? 何故?」
ああ、つまらない。
安いトレンディドラマのような安い台詞。俺を捨てるのか。何故。妻帯者の癖に、どの口がそんなことを言えるのか。
「あなたに飽きたんですよ」
「……なんだと?」
「だって、先生は──」
私の足で射精できますか?
できないでしょう?
梟谷学園数学準備室。
夕闇迫るこの部屋で突拍子もないことを言ってのける私を、呆然と見つめる蒼井は、興醒めしてしまうくらい間抜けな顔をしていた。
蒼井先生、貴方とはもう終わり。
「私を満たせるのは彼だけなの」
私にはあなただけよ。
ね、──京治。
【了】
爪先にルージュを塗って