第4章 水仙姫《1》
営業スマイルを貼り付かせて念の為確認してみる。
答えは同じ。
「くだらん事をしている時間も資源も人員も体力も無い」
そして無言で出て行くように扉を指差す。
此処で出て行く様であれば百戦錬磨エルミの名折れだ。
諦めずに泣き落としで訴える。
「ここでアナタと寝ないと激しく折檻されるんです」
「ソイツと寝てろ」
そして空振り。
最後の手段と力ずくで挑み……勿論返り討ち。
部屋の外に放り出される。
無情にもバタンと閉まったドアからはガチャリと施錠の音が響いた。
「もーっ!私がこんなに言ってるのにっ!!ソノ気になんないなんて不能なんじゃないのーっ!!」
捨て台詞を吐いて自分の部屋に戻った。
どうしても寝る気になれず、“お得意様”の部屋に忍び込んだ。
美しい所作と力強い逞しい身体、何よりサービス精神が旺盛で女性を気持ち良くするのが一番興奮する、という世で言うマグロの味方のような人。
私にはただの変態にしか思えないのだけれど、今日だけは彼に慰めて欲しかった。
「エールヴィンたーいちょー」
以前貰った合い鍵でドアを開けて寝室に顔を出す。
室内は蝋燭の薄明かりにゆらゆらと照らし出されていた。
ベッドに腰かけて書類に目を通す姿だけみれば一枚の絵のように美しい。
それが変態とは。
(なんて残念な男なのかしら)
こちらにやっと気付いた彼に営業スマイルをひとつ送り手をひらひら振ってやる。
彼はどこぞの兵長とは違い愛想の良い笑顔で私をベッドにエスコートした。