第1章 おひるね
中庭へ向かうと、先客がいた。
「白龍?」
「あ、エル殿。お静かにお願いします」
なにをしているの、と言う前に断られてしまった。
「なぁに」
ひそひそ声で聞けば、彼の体がずれてその影にあったものが顕になった。
「まぁ、アラジン」
「寝ているようです」
すやすやと10歳位の子供がかわいらしい寝息を立てている。
「疲れてるのかな」
「彼も毎日魔法の修行をしていますからね」
とても体力を使うらしいですから、と彼は言った。
「修行も大事ですが、こうして休む事も大事です。ふと寝てしまうということは、体がその休息を必要としているのでしょう……起こしてはいけないと思って、見守っていました。」
なるほど、それでさっきすれ違った女官達はくすくす笑いながら忍び足で歩いていたのね。
「白龍もね」
「え?」
自分に話が振られるとは予想外だったのか、キョトンとした顔で聞き返される。
「白龍もちゃんと休んでないでしょう。いい機会だから一緒にお昼寝なさいよ」
「俺はいいのです、もっと鍛錬しなければ、」
「この隈とその青白い顔はなに?どの口が休むことも大切なんて言えたわね」
「…これは」
指摘されて、口籠る。見事に不満そうに眉が寄っている。
「いいから寝なさい。私が見ててあげるから」
「しかし」
「少しくらい休んだって、ばちは当たらないでしょう」
「…………………」
彼がこんなに根詰めて強くなろうとしている理由を私は知っている。
いくら切望していたとしても、がむしゃらに頑張れば叶うものではない。
「…すみません」
「わかったら早く横になりなさいな」
しばらくの逡巡の後折れた白龍を寝かしつけて、アラジンと並ばせる。
「これで二人とも見張れるわ」
「見張…?」
「見守れるわ」
言い直してから、ふと思いつき、ちいさな唄を口ずさむ。
「……やめてください……子守唄なんて」
いい思い出がない。
そういわんばかりの彼をなだめ、唄い続ける。
膝枕をし、黒い髪を撫でながら。
白龍は初めは眉に皺をよせていたが、やがて抑え込んできた眠気が出てきたのか、瞼をとじ、寝息を立て始めた。
私はいとおしげに髪を撫で続ける。
「おやすみ」
膝の上の彼のくちびるにひとつ、くちづけを落とした。