第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「あちらにある試験管がそうですよ。力を望む者たちの養育所のようになってしまっておりますが……」
男の視線の先にあった部屋の奥に並ぶ球体に、ヒト型のものが浮かんでいるのが見えてハイリアは息をのんだ。
列を作りながらいくつか並ぶ大きな球体の中に浮かんでいるのは、どれも何かの獣と人間が混じり合ったような姿をしたものだった。
屈強な肉体をしたヒト型のそれが、胎児のように身体を丸くして溶液内で眠っている。
「この力を欲する者たちは、宮廷では多いですよ。非力な武官たちは特に欲しがりますな。
力を手に入れ、名声をあげ、武官としての地位を高められれば、富も権力も手に入るのですから当然といえば、当然なのですが、リスクがないわけではありませんのにね……。
短命なのが、この実験体の悩みでしょうか。まあ、わたくしどもには関係のないことですが」
当たり前のように覆面の男はそう言って笑っていた。
── じゃあ、あの中にいるのは煌の武官なの!? こんな非人道的なこと、許されるはずが……!
陛下が許しているというのだろうか。皇子たちは、このことを知っているのだろうか。
黒ルフを宿していた皇后を思い出して恐くなった。何を信じていいのかよくわからなくなる。
── この人たちが話していた実験って、まさか……!?
「さあ、こんなところで立ち止まっていないで早く行きますよ。迷宮生物の実験など、すぐに関わることになりましょう。
そんなものより、本日は我らの金属器の実験を行わなければ……」
── え……、金属器……? 金属器の実験って、どういうこと……?
覆面の男が発した言葉に頭が混乱しながら、男のあとについて歩き出すと、異様な迷宮生物の入った球体試験管が並ぶ奥に、机を囲んで座り待つ七人の従者の姿があった。
書物を抱え持つこちらの姿に気づくなり、彼らが一斉に振り返る。