第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── なんなの、これは……!?
すぐ側にある一つの球体を見上げると、中では自分の体よりも大きな生き物が眠りについていた。
四足の巨体と長い鼻。その姿は象に似ているが、知っているものより鼻の数が多く、足も長い。
その隣には、額に目が多いヒヒ猿のような生き物と、豹のような巨獣がそれぞれ球体の中で眠りについていた。
丸い水槽のようにも見える球体の下には、幾重にも円が重なる星の図形が描かれている。
どこかで見覚えがあるような気がして記憶を探った脳裏に、魔術書が並ぶ書庫の情景がよみがえってきた。
書物が積み重なる机の上に広げられていた、紙に描かれた魔法陣。それと図形がそっくりなのだ。
そういえば、あの魔法陣の側にはトラン語で不思議なことが書かれていなかったか?
確か、【……魔法生物と、その応用……】だとか。
「迷宮生物に興味がありますかな? 」
立ち止まって大きな球体を見上げていたハイリアの耳に、低い男の声が響いた。
気づけば、この場所へ連れてきた覆面の男が、こちらを振り返り見ていた。
── 迷宮生物……?
「新入りの方なら、ごらんになるのも初めてでしょう? 我らの研究成果の一つですよ。迷宮に住まう強大な力をもつ迷宮生物。その力を応用するために迷宮から持ち帰ってきたのが、これらの素材になります」
「じゃあ、これ……、全て迷宮の?! 」
「はい、この素材たちは実に優秀ですよ。被験体との適合も良く、楽に強大な力が手に入りますからな。
強靭な肉体と特殊な能力をもつ迷宮生物たちの力。得られれば、金属器の眷属たる者達と同等に近い力を手に入れることが可能です。
すでに研究は成功しておりまして、我らの技術で人との合成も可能となりました」
── 人との合成ですって!?
信じられない言葉に戸惑う中、覆面の男は怪しげな笑みを浮かべていた。