第9章 「シン」という男
男の必死な説得により、ハイリア達は和解をすませた。
「いやー助かった。服を貸してくれてありがとう、アラジン」
「うん、僕の小さい服しかなくてごめんよ」
優しいアラジンの服を借り、着替えをすませた男は、なぜか今、ハイリア達と一緒にバルバッドへ向けて歩いている。
全裸ではなくなっているとはいえ、その姿は小さい衣類を無理矢理まとっているため、パッツンパツンのムッチムチで、やはり変態以外の何者にも見えない。
どう見ても『キケンなもの』だ。
変態と道中を共に歩くことになったハイリアは、こうなってしまった事態に、心の中でうろたえていた。
なんでこうなってしまったのだろうか。
隣を歩く、不審者を横目に一人考えていた。
「シン」と名乗るこの変態男は、商人なのだという。
自分たちと同じようにバルバッドへ向かう途中、ジャングルで眠って休んでいる間に、荷物も着物もすべて盗まれてしまったのだと、彼は説明した。
目的地が同じだったため、一緒にバルバッドへ向かうことになってしまったワケだが、どう見てもおかしい。とても商人とは思えなかった。
まず、この男の雰囲気が商人らしくない。
長いキャラバンでの生活で、色んな商人と会ってきたが、こんな派手な雰囲気をもった商人には出会ったことがなかった。
だいたい、ジャングルで眠って盗みに遭うだなんて、そんな金銭の管理に無頓着な商人がいるのだろうか。
明るく気さくな人柄に見えるせいか、アラジンはすっかりシンと仲良くなっているし、モルジアナもアラジンが信用しているせいか、特に気にする様子もない。
こんなに怪しい人だっていうのに、二人とも警戒心が足りなさすぎる。
街に着いたらどうにか理由をつけて、この胡散臭い人とは別れてやろうと、ハイリアは心の中で決めた。
「その丘を下れば、街が見えるよ」
シンが道の先を指さした。
気づけばジャングルの終わりが見えていた。
アラジンがうれしそうに駆けていったのを、モルジアナと追いかけて、丘に上にたどり着いた瞬間、緑の景色が一変した。