第3章 砂漠のオアシス
西南の小国郡までやってきたキャラバン一行は、オアシスの中心に位置する町のバザールで、今日も商売に打ち込んでいた。
オアシスのバザールはとても賑やかだ。
その一角で、一際賑わいをみせているのが、ハイリアが働く露店だった。それもこれも、ライラのおかげだ。
「買った、買った! この町じゃ穫れないもんばかりだよ!! 」
バザールに明るいライラの声が響き渡ると、彼女の声に自然と人が寄せられる。
露店に並ぶ、珍しい南国の果物や野菜が飛ぶように売れていくのをみながら、ハイリアは感心するしかなかった。
「すごーい! あんなに持ってきたのに、もうほとんど売れちゃって……」
言葉上手な売り子であるライラに圧倒されながら、ハイリアはあっという間になくなっていく商品を見つめていた。
自分一人では、ここまで売りさばくことはできないだろう。
「感心してないで手を動かしてくれよ、ハイリア。ほら、お前の前にいるお客さんが、さっきからお金出して待ってるぞ! 」
ライラの声にはっとして、前を見ると、お金を出したお客さんが、少し困った顔をしながら、商品である赤い果実を指さしていた。
慌てて料金を受け取りながら、お客さんに商品を手渡した。
── 危ない、危ない。仕事中だっていうのに、すっかり意識がそれてたわ。
「頑張らなきゃっ! 」と、拳を硬く握りしめて、気合いを入れ直した姿を、気づけばライラに見られていた。
くすりと笑われてしまって、なんだか恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じた。
「そうそうハイリア、頑張ってくれよ~! まだまだ商品はくるんだからねぇ! サアサ、売り切れちまうぞ、荷はまだなのか? 」
「大丈夫。今、まとめて運ばれてくるわ」
お世話になっているキャラバンの長の娘でもあるサアサが、にっこりと微笑んだ。
ライラとサアサの息は今日もぴったりだ。
二人ともキャラバンで一緒に生活し始めて長いらしく、ハイリアよりも一つ年上のお姉さんである。
サアサは、褐色の肌に肩まで伸ばした黒髪が綺麗な、穏やかで優しいお姉さん。
金髪を短く切りそろえたライラは、笑顔が似合う、頼りがいのあるお姉さん。
一言でいえば、サアサは女性的で、ライラは少し男っぽい。
半年間、一緒に暮らす中で、二人とも今ではハイリアにとって大切なお姉さんだ。