第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
トクン、トクン、と伝わってくるリズムが心地良く感じられてきて、不思議と落ち着いた気分になってくる。
抱き寄せられているぬくもりさえ、心地良くなってきて、気づけば緊張して硬くなっていた腕の力は抜けていた。
背中にあたるジュダルの腕も、脱力しているのが何となくわかったけれど、抜け出してやろうという気分には、不思議とならなかった。
鼓動もいつしか落ち着いて、胸のリズムは穏やかに同じリズムを刻んでいた。
トクン、トクン、と優しい音を響かせる。
穏やかな気持ちの中、ふと、自分を抱きしめているジュダルの肩が、やけにゆるやかな動きをしていることに気がついた。
「ジュダル? 」
さっきから何も言わないジュダルに声をかけたが、返答はなかった。
よくよく見れば、自分を抱え込んだまま、ジュダルは穏やかな顔して目を閉じていた。
「眠っているの? 」
揺すり起こそうとして、ジュダルの頭が肩に寄りかかってきた。
前のめりに倒れ込むような姿勢となったのに、背中に回しこんでいる腕は外してくれそうにない様子だったから苦笑した。
よくこんな眠りにくそうな姿勢で、寝ることができるなあと感心してしまう。
気持ちよさそうに寝息をたてている姿は、まるで大きな子どものようだ。
あんまり気持ちよさそうに眠っているから、起こすことに気が引けた。
肩から少しずり落ちそうになった彼の体を、背中に腕を回して支えてやった。
少しくらい、このまま寝かせてあげてもいいのかもしれない。
「少しだけ、なんだからね」
眠るジュダルにひそかに呟いて、ハイリアは穏やかな笑みを浮かべた。