第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
薄暗く広い部屋の中、ジュダルは目を開けた。
横たわる床に刻まれている八芒星の線をなぞりながら、ここにいることを確認する。
先程まで渦巻くように聞こえていた嫌な音が、まだ頭の中に響いていた。
最悪の気分のまま起きあがると、八芒星の中心にいるのは自分だけで、周りを囲んでいたはずの大勢の従者たちの姿はいつの間にか消えていた。
「お目覚めですかな、『マギ』よ」
知った声が呼びかけてきた。最近、側にいる従者の一人だった。
「ああ、もう終わりだろ? 行っていいか? 」
「申し訳ありませんが、もう一つ片付けていただきたいことがございまして……」
『片付け』と聞いて、何を求めているのかすぐにわかった。
面倒くさい内容に顔をしかめた。
「あんなもん、おまえらでどうにかしろよ! 」
「我らではもう手に負えませんので……」
「ったく、めんどくせぇーな! 」
苛立って思わず舌打ちした。
立ち上がると、従者の男は何も言わずに歩き出した。
顔も見えない男について行き、辿り着いたのは見慣れた地下の牢獄だった。
罪人が収容されるその場所の一角に、いびつな形状をしたものがいた。
黒く変色した皮膚は、もはや人ではなく、炭か何かのようだった。
鋭利な刃物のような爪を、厚い石のような肌に刻み入れながら、低いうなり声を上げてその男はもがき苦しんでいた。
咆哮を上げ、その爪を振り回しながら抵抗をみせる男の顔は、かろうじて人に見えるが、ほぼ蛇のような鱗に覆われていたし、目は獣のようだった。
背には黒い翼が生えていて、激しく羽ばたきを見せる姿は、もはや化け物だ。