第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「と、とぼけるなぁー! 俺が退治してやる!! お、俺が王になるんだー!! 」
狂ったようにワケのわからないことを口走りながら、男は剣を振るって襲ってきた。
剣の攻撃は荒く簡単に避けられるのだが、男は諦める様子が無いようで、いくら避けても斬り込んできた。
「落ち着いてください! 私は敵じゃありません! 」
「うるさい! 化け物のくせに! もう騙されないからな! 」
話を聞いてもくれないようで、男はいっこうに武器をしまってくれる気配がなかった。
仕方なく、ハイリアは男の動きを止めるために動き出した。空を斬った剣の脇を通り、足を踏み込むと、男の懐に入り込んで、握りしめた拳で殴り込む。
利き腕じゃないせいで力が入りにくかったが、攻撃は男のみぞおちにしっかりと入った。
しかし、男はうずくまりゲホゲホと咳込んだだけで、剣を放さなかった。すぐに剣を杖代わりにして立ち上がる。
「くっそー! お、女のくせに、なんて力だ。化け物めー!! 」
ほとんど攻撃が効いた様子がない男をみて、ハイリアは戸惑った。
臆病だが、体力だけは頑丈な男のようだ。
道を聞きたいのもあって、マゴイを入れて打ち込まなかったとはいえ、それなりに強く打ち込んだのだ。
このまま攻防戦を続けられても困ってしまう。
「お願いですから、剣を収めてください! 剣をしまっていただければ、攻撃はしませんから! 」
「そ、そうやってまた、俺を、騙す気だな!? 」
再び剣を握り、睨み付けてきた男をみて、ハイリアは急いで距離を取った。
せっかく出口を知る人が見つかったというのに、これでは意味がない。
いったいどうすれば、この人は話を聞いてくれるのだろうか。
困り果てていたその時、強烈に嫌な気配を感じ取って、ハイリアは大きく後退した。