第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
ようやく見えた希望の兆しに、ハイリアは歩調を早めた。
足は重く、何かを引きずっているみたいだった。
感覚がないようにも感じるが、これが毒のせいか、歩き疲れただけなのかは、よくわからなかった。
とにかく、外へ出るんだ。
出口の先に、林があるのかもわからないけれど、早く街にたどり着いて、村の異変を知らせなければならない。
応援を頼んで、村に戻ってみんなを……。
そこまで考えて、ハイリアは、目に涙が溜まるのを感じた。
どこかで期待していた。村へ戻れば、みんなが素知らぬふりして待っていて、笑いかけてくれるんじゃないかって。
でも、わかっている。みんなはもういないんだ。
「だ、誰だおまえ!? な、なんで、こんなところに、ひ、人が、いるんだ!? 」
突然、声がして振り返ると、いつの間にか黒いローブのような服に身を包んだ男が、青ざめた顔してハイリアを睨み付けていた。
随分と、おどおどとした態度の男だ。手に持った長剣をつきだしているが、その刃はガタガタと震えている。ここに来て初めてみる人の姿だった。
よく見ると、男が立つ後ろには、ハイリアが来た道とは別の細い洞穴が見えた。
あちらにも道があったのだ。きっと、あの道の先が外に繋がっているに違いない。
「よかった。やっぱりここは外へ繋がっているんですね! あなたは、どうやってここに辿り着いたんですか? 」
刃も恐がらずに近づいてくるハイリアを見て、男は顔を引きつらせた。
「く、来るなー! ワケわかんねぇこと言うんじゃねぇ! お前も、さ、さっきの奴の仲間だろう! 」
男は混乱した様子で、剣を振り回した。
きっと、男もこの祠の中で、妙な出来事に遭ったのだろう。
ハイリアは男を落ち着かせようと、両手を挙げようとして、右手が挙がらないことに気がついた。仕方なく、左手だけを挙げて話しかける。
「大丈夫、私はあなたの敵じゃありません。道を知りたいだけなんです。外へ出られる場所を探しています。あなたは知っているんじゃないですか? 」
なるべく笑顔を浮かべて言ったというのに、男は突然、ハイリアに斬り込んできた。