第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 智(藍姫)side ❦
潤様…
櫻井様とご一緒に楼主部屋に来ていることは
奏月から聞いております
昌宏さんとお会いになって、何をお話なさっているのですか…
私には分かりません
ですが…
『必ず力になるから
だから1人で思い詰めるなよ…』
おっしゃってくださった、このお言葉
ただの推測に過ぎませんが
私はもしやと思っております…
「潤様…
ここに居る全ての者を解放してやりたいという私の思いを伝えてくださっているのでは…ありませんか…?」
だとしたらほんに…頭が上がりません…
「私の、せいなのに…」
座りながら小さい窓に目をやると
ここから見えるのは狭い空
…あの空のように
遊艷楼というこの狭き世界しか知らない子達
知らないようにしたのは私
本来ならば外で遊び、学び、恋をし成長していく
戸籍が無くとも、身体を売るなど…
幼い、無垢な子達が大人の欲望を身体で受け止めるなど…
『僕の身体を売ってください』
たくさんの子供達を傷付けたのは
紛れもない私
私なのです
私、ですのに…
「……ふ…っう…」
まだそうだと、言われてもいないのに
違うかもしれないのに
涙が溢れた
目を擦っても、上を向いても
それは次々と溢れ出てきて止まらない
「…ふ、はは…」
おかしいな
何をこんなに泣いているのでしょう
色んなことを想像したら…
ここの子達が解放される、そんな素晴らしい日を想像したらポロポロポロポロ…
「……ん…ふふ…」
潤様のせいですかね
この頃、私の涙腺が弛みっぱなしなのは
きっとそうです
笑っているのに涙が一向に収まらないんですから
どうしてくれるのですか
責任をとってください
止めてください…
「…っ…う…藍姫はこんなに…っ泣き虫ではありませんでした…のに…」
潤様…
潤様……