第1章 かりそめの遊艶楼
「良かったね、さとちゃん…
本当に良かった
松本様に幸せにしてもらうんだよ?
約束だよ…?」
「私も真に嬉しいです…
藍姫様…おめでとうございます」
「ありがとう、二人共…
私は心の何処かで…幸せを恐れてきました…
…欲望の吐き処であるこの楼が出来たのは私のせい
私の罪ですから…
幸せになる事など許されないと…ずっとそう思ってきた…」
藍姫様の悲痛なまでの心の内は
僕には計り知れない
ずっと、ずっと、たった一人でこの小さな背中に
十字架を背負い続けて来たのですね…
それがどれほど辛く、苦しい事であったか…
「潤様に私の全てをお話したのです…
過去も、
本心も、全て…」
「本心、とは…?」
「もう
此処の子らを解放してあげたいのです…」
あれほどまでに
唇を噛んで自らを傷めつけてはならないと言った藍姫様が
血を滲ませる程に
ギュッと唇を噛んだ
「藍姫様…」
「そっか…
松本様はなんて言ってた…?」
「必ず力になると…
だからもう一人で思い詰めるなと…そう仰ってくださいました…
なれど…解放してあげられたところで
此処の子らに行く宛など無いのですと申し上げました…
楼主様や雅紀さんが囚われるのも嫌です…
遊艷楼に関わる全ての皆が幸せになる方法など…
きっと何処にも無い…」
「藍姫様
私は学が無く、詳しい事はわかりませんが…
きっと良い方法が見つかる筈
松本様が…それに、翔様だって居るのです…
お二人の知恵と行動力があれば
光が見えてくる筈
私はそう信じます」
「そうだよ、さとちゃん!
ここはお二人に甘えてさ、知恵を絞ってもらおう?
僕達だけでは出来ない事を、あのお二人なら成し遂げられる筈だよ
必ず力になると仰ってくださったんでしょ?
信じよう? ね、さとちゃん」
どれだけの年月がかかり
どれだけの知恵と労力を要するか
それは計り知れないけれど
きっと見つかる筈
そう信じるより他は無かった
「ありがとう二人共…
私も…潤様のお言葉を信じたい
いえ、信じます…」
今度翔様がお見えになった際は
この事もお話してみよう
きっと親身になってくださる筈
僕だって皆が幸せになる道に向かい、歩みたい
そして藍姫様の背負った十字架を
その背から降ろして差し上げたい
翔様と松本様ならきっと…
きっと、光に導いて下さる筈…