第1章 かりそめの遊艶楼
自分を二の次にするところは潤の長所だ
でも藍姫を想う潤には短所だと思う
「じゃあね、翔くんまた連絡する」
「…うん」
愛車で俺の横を通り過ぎる間際、閉められた窓の奥から手を振る潤
「……藍姫は、潤が好きなんだと思うよ」
手を振り返しながら呟いた、俺の声はきっと聞こえてない
潤は笑顔で駐車場を出ていった
それに続くように俺の車も出した
2人のこと、気にはなるけど
今は和也のことが最優先だ…
それから大学と並行して脱税の情報を集めた
父に見つかると面倒だから
ネットを使うならネカフェに行って
情報交換に潤と小まめに連絡をとって
なるべく正確に、落ち度がないように…
そうして何週間かして
密告に必要な証拠を十分なものにした俺達は
行動に出る
メールや電話、あらゆる手を使い
遂に、国税局に喜多川グループの脱税を密告したんだ
電話の向こう側は
噂だけだった大手企業の黒い闇が明かされたと騒然だった
早く和也と協力してくれた2人に知らせたくて楼へ直行した
一緒だった潤は迷わず藍姫の部屋へ行き
俺はそんな潤の背中を見ながら和也の部屋へ入った
「…ってことで後は結果がどうなるか、待つのみだ」
「翔様…なんとお礼を申し上げたら…」
「んー何してもらおうかなー」
「わ、私の出来る範囲で…」
「ははっ冗談だって
和也が傍にいてくれれば何もいらないよ」
「はい、お傍にいます…ずっと
翔様の元を片時も離れは致しません」
「…和也」
チュッと額にキスを落とす
赤くなる和也にたまらずもう1回…もう1回と
顔中にキスの雨を降らせた
「ふふふ…擽ったいです翔様」
「翔様…?」
「あ……翔…っん」
敢えて残しておいた唇に、俺のをそっと重ねる
軽く触れるだけのキスを何回か繰り返してから
舌を入れ、絡ませると和也の顔がとろんと蕩けた
「ん…ふっ…しょ…」
唇はそのままに和也を抱き上げ、褥部屋へ入ると俺達は深く愛し合った
「じゃ、また報告に来るよ」
「はい…お待ち申し上げております」
別れの口付けを交わして襖を開ける
廊下に出てすぐ、潤が駆け寄ってきた
「うお…何ニヤニヤしてんの?」
「んふふー後でね」
潤はなぜかご機嫌だった
俺はそんな潤に腕を引かれて、楼を後にした