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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼


❦ 智(藍姫)side ❦


櫻井様と潤様のお姿が見えなくなると
私は次の客人の為、松の間へと足を向けた


「ねぇ、さとちゃん」


琥珀の声に振り返る


「なんですか?」

「松本様のこと好きなんでしょ?」


いつもの天真爛漫な笑みではなく
ほんわりとした優しい微笑みで問かれた

私はそれに目を丸くして驚き、口を結ぶ


「好きなんでしょ?
さっきのさとちゃんの顔がそう言ってたよ」

「私も…そう見えました」


奏月も遠慮気味に
だが、私は何も言えなかった

違いますよと想う方がいるのでと
言い返せなかった


…分からなくなってしまったから


櫻の間に来る前、潤様の腕の中で情けなくも泣いた私
泣き止んでもしばらくそこに身を預けて
潤様の温もりに、安堵を感じていた

でも、私の心には昌宏さんがいるから
潤様に出会うよりもずっとずっと前から昌宏さんを想っているから
自分に言い聞かせて離れた


…離れたはずなのに、目の前にいる潤様を見ると
すぐに心は潤様でいっぱいになって
また、身体を寄せた


私は…おかしくなってしまいました
今までこんなこと…


「さとちゃん?」

「…せん」

「藍姫様…?」

「…分かりません…私は…」


視線があちこちに移動してしまって
まともに奏月の顔も、琥珀の顔も見れない

堪らず目を瞑り、俯く


「藍姫様…」

「違う…違います
潤様ではありません、私の心には想う方が…」


昌宏さんは私の想う方…


「さとちゃん
僕はね、さとちゃんのいう想う方を知ってるよ?
…楼主様でしょ?」


パッと顔を上げると
なぜ知っているのかと視線を送った


「僕もね、楼主様のことを想ってるよ?」

「…え?」

「僕だって拾われてきて、ここで育った子だもん
楼主様をお慕いしてる…

…よく聞いてさとちゃん
これはね、恋心とは言わないんだよ?
忠誠心って…いうの」


忠誠心…
昌宏さんへの想いは…忠誠心


「……じゃあ私は…」

「さとちゃんが好きな人は誰かなぁ?」

「私の心に…いるのは…」


私の中で何かが弾けた


「…潤…様」


そのお方の満面の笑みが浮かんでくる


「……潤様」


私に向け、手を差し伸べてくださってる


「潤様…潤様…っ」


気付けば2人を抱き寄せて
心から溢れる名を、何度も呟いていた
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