第1章 かりそめの遊艶楼
「そんな風に思ってくれてたのか」
僕は大きく頷いた
「そっか…
はぁ…早くお前を嫁に欲しいよ」
「よ、嫁?!
私は男ですよ?!」
「あぁ、知ってるよ?」
「嫁って、だって…」
あたふたする僕は
きっと紅い顔をしているだろう
そんな僕を
翔様は覗き込むようにしてじっと見つめる
「俺の嫁じゃ不満か?」
「そんなことっ…!」
不満どころか
翔様がいいに決まってる
男の僕がお嫁になんて行けるわけないけど
翔様のお側に居たい
翔様じゃなきゃ、嫌…
「言って? 和也
俺の嫁になるって
約束してくれよ」
「翔様…」
「誰にも渡したくないんだ、和也のこと」
『お前を身請けしてやろう
忘れるな、奏月。
俺は羽柴だ』
『羽柴…?』
『どんな手段を使っても
鳴かせてみせるという意味だよ』
先のお客人の言葉が蘇る
“鳴かぬなら 鳴かせてみせよう 不如帰”
どんな手を使っても…
あの方は僕を…
「和也…?」
「翔様、私を…」
どうか私を
「お嫁さんにしてくださいませ」
「必ず」
「約束ですよ…?」
「あぁ。約束だ」
小指と小指を絡め
長い長い約束の口付けをすれば
先のお客人から威圧的に言われた身請け話など
頭の中から消えて無くなっていた
それから僕達は
いつものように褥部屋で愛し合い
風呂に入って未だ見えぬ月を想い
時間いっぱい、二人の時間を堪能した
「ごめんな、ゆっくりして行けなくて」
「翔様がお忙しいのは承知の事
私も辛抱致します故、」
「約束したもんな?」
「ええ、確かに」
「唇で交わす約束は絶対だもんな?」
「どうされたのです、翔様?
信じられませんか…?」
「いや、そうじゃない
後は俺の問題だ
一日も早く、和也を迎えに来れる男にならないと…」
言葉の端々に
翔様の焦燥感を感じた
この時は気付きもしなかった
まさかあの方が僕を身請けしようとしていることを
翔様が知っていたなんて
「私も翔様に見合う様、努力せねば」
「そのままの和也でいいよ
ただ、もう少し肥えた方がいいな」
「はぁ…努力致します、」
「だってその方が抱き心地がいいだろ?」
コソッと耳元で囁く
「もうっ!」
プーッと膨らませた僕の頬に
翔様がチュッと口付けた