第1章 かりそめの遊艶楼
翔様をお見送りし
部屋に一人
次はいつお会いできるのだろうと思いを馳せながら
最後に口付けられた頬を愛おしく撫でた
「和也? 入ってもいい?」
この声は琥珀様
「どうぞ」
返事の言葉と同時にスッと襖が開く
「お疲れ様で御座います、琥珀様」
「硬いよ、和也! 『健ちゃん』で良いって言ったでしょ?」
人懐こく微笑う琥珀様は
年下の僕から見ても真に可愛いらしいお方だ
「夕食は、まだ?」
「はい。これからに御座います」
「ホント? じゃあ一緒に食べない?」
「御一緒に、ですか?」
「うん!
今日はもうお客が入ってないようだし
さとちゃんも来てくれるって言ってたし♪」
「藍姫様も?」
「たまにはいいでしょ?
太夫談議に花を咲かそうよ♪」
琥珀様のお誘いを受けて藤の間へ向かうと
部屋子達が御膳を運び入れているところだった
「奏月様
此方でよろしかったでしょうか」
「ええ。いつもありがとう、慧」
ニコリと微笑むと
慧もはにかんでくれる
「お食事のあとはゆっくり休まれてくださいませ」
そう言って丁寧に頭を下げると
他の二人の部屋子と共に階段を降りていった
「あっ、さとちゃん♪」
琥珀様が藍姫様のお姿を見るなり手招きする
「ふふっ。お招き頂き、ありがとう」
「たまには、ね? んふふ♪」
「さぁ、いただきましょうか」
「いただきましょう♪」
「いただきます」
振り袖をサラリと翻し
畳に座する藍姫様の所為は何とも美しい
翔様に相応しいのはきっと
藍姫様の様なお方なのだろう
「どうしたの?和也
食べないの?」
「へっ?」
「食べないと大きくなれないよ?」
「奏月よりも琥珀の方が小さいでしょう?」
「さとちゃん、酷いっ!」
「ふふっ。小さくて可愛らしいと褒めているのですよ?」
お二人の掛け合いが可笑しくて
僕も思わず声を出して笑った
「それで…何か話があるのではないですか、琥珀」
「あっ。バレちゃった?
あのね、僕、聞いちゃったんだよね」
なんの事やら分からずにいると
琥珀様が僕の方に体を向き直し
真剣な面持ちで話し始めた
「ねぇ、和也
喜多川さんに身請けの話されてるんじゃない?」
「…」
「そうなのですか? 奏月」
「…はい、」
お二人のお顔が一気に曇る