第9章 ❦ SPECIAL THANKS ❦ Vol.2
❦雅紀Side❦
おかしいな、午前中まではわりと余裕だったのに
時間が近付くに連れてめちゃめちゃ緊張してきちゃったよ…
「ちょっと〜。そんなんで平気なの?雅紀さん」
「だっ、大丈夫だよ…!
でももう一回トイレ行ってくるっ…!」
呆れ顔の健を他所に、バタバタとトイレに駆け込んだ
男遊郭 遊艶楼から児童養護施設 魅華月へと姿を変えてから
健や光一に支えられながら、馴れない運営の仕事も自分なりに精一杯頑張って来た
智と和也が巣立って行ったあその後を追うように
数名の元魅陰達が此処を去って行った
それは決して悲しい別れなんかじゃなくて
外の世界を知るようになって、新しい出会いがあって
そこで幸せを掴んだ者も居れば
此処で愛を育み、共に巣立って行った者
元客と幸せになった者もいる
鈴蘭の花が咲く前にも、此処では幾つもの幸福という名の花の芽が芽吹いていたんだ
お腹を擦りながら階段を上がりきると
慧が施設長室のドアの前を落ち着かない様子で行ったり来たりしていた
「雅紀さん! …お腹、大丈夫ですか?
何か悪いものでも食べましたか?
それとも冷えたのかな、
そうだ!僕、何か温かい飲み物持って来ま…」
「慧」
くるりと向けた背中を
その手を掴んで引き寄せ、抱きしめた