第1章 かりそめの遊艶楼
裕様の亡骸は
どういう風にしたのか、世間に知られることなく火葬され
共同墓地に葬られた
その日以来
毎日の様に弾いていた玩具のピアノも弾かなくなった
此処にいる限り
ささやかな夢など追ったところで
すべては戯れ、かりそめだ
だから無意味なのだ
翔様とのことも、全部…
「お前は本当に頑固だな…!」
「…っ、」
後ろから打ち付けられて肘から崩れ落ちた
「鳴かぬなら
鳴かせてみせよう 不如帰
知ってるか?
ほら、鳴け! 我慢してるだけなんだろ?」
嫌だ
僕は快楽に溺れたりしない
金だ
金さえ貰えればいいんだ
客に自分の身体を貸す
貸すだけだ
僕はモノなんだ
モノは感情を持たない
僕は…
「あぁっ…っく! はぁっ…はぁ…」
客人の熱を受け止めると
呆れた顔で塊を引き抜いた
「俺以外の客にもこうなのか?
そのうち酷い目に合うぞ
…まぁ、いいか」
呆れたように言い捨てると
とっとと支度をして部屋を出ようとした
「…またのお越しをお待ちしております」
「ははっ
心にもないことを言うな
まぁいい、また来る」
楽しくもないだろうに
僕の何がいいのか
最後に風呂にも入らず
時間いっぱい、繋がっていたがる
「はぁ…」
溜息を一つついて、風呂場へと向かうと
いの一番に窓を開ける
満月も近い
あと数日で翔様が日本に戻られる
きっとこんな僕を見て
翔様も愛想を尽かすだろう
「…これでいいんだ」
身体に力を入れているから
節々が痛む
先ほどの客人が内腿に付けていった口吸いの痕を
手ぬぐいでただ無心に血が滲むほどに擦り続けると
枯れたと思っていたはずの涙が
ポタリと落ちた
鳴かぬなら
鳴かせてみせよう 不如帰
それよりも
もっと相応しいのがあるでしょう?
「鳴かぬなら
殺してしまえ 不如帰…」
どこぞのお客人がそう言って
僕を殺してしまえばいい
裕様
僕をそちらに連れて行ってはくれませんか
“お前はまだまだこれからや
頑張りや…”
裕様
その言葉の真意はどこにあるのですか…?
僕が頑張ることで
何か変わるのですか…?
身体がすっかり冷えてしまった
湯船に足を入れると
擦り過ぎた内腿が尚もヒリヒリと痛んだ