第9章 ❦ SPECIAL THANKS ❦ Vol.2
「っ、ほら智。手ぇ洗おう?
それに服まで粉で真っ白だ。そうだ、シャワー浴びておいで」
「うん…」
「着替え後から持って行くから」
「…うん、」
脱衣所の鏡に映る自分の姿に目を止める
そこにはもう、藍姫の面影は無いはずだった
長く伸ばした髪も切ったし
紅も引いていない
それなのに…
ギュッと唇を噛んで浴室に飛び込み
シャワーの水を頭から浴びた
全部
全部洗い流して
過去の僕も、全部…
綺麗に畳まれた着替えの洋服の一番上に
見覚えのある櫛が置かれていた
青いシールで装飾された鼈甲の櫛は
別れの日に琥珀がくれた物…
「健ちゃん…健ちゃんは今、幸せ…?」
櫛を手に取り、問いかける
『さとちゃん!』
目を瞑れば蘇る、健ちゃんとの記憶
お転婆で、天真爛漫で
だけどそれが貴方の本当の姿だと知ったのは
貴方が遊艶楼に来て暫く経ってからの事だった
初めて逢った時はまるで世界中が敵であるかの様に荒んだ目をしていて…
『藍姫。今日から一緒に仕事をする事になった秀明と健だよ』
雅紀さんが連れてきた二人の少年のうちの一人が、健ちゃんだった
『何、お前女なの?
ねぇ雅紀さん。俺、女なんかと一緒に暮らしたくないんだけど』