第9章 ❦ SPECIAL THANKS ❦ Vol.2
❦智Side❦
「上手、上手
やっぱ器用だよね、智って。
きっと皆も喜ぶよ?」
ボウルに入ったクッキー生地を纏めている僕を
向かいの椅子に座った潤さんがニコニコと見つめて言った
「そう…かな、」
「そうだよ」
「汚いのに…?」
「馬鹿だな、いつも言ってるでしょ?
智は汚くなんかない。
この手は、汚くなんかないんだよ?」
「でも…」
僕の手は、汚い。
潤さんと一緒に暮らすようになって、キラキラした世界を知れば知る程
自分の穢れを思い知らされるようで…
住む世界が違い過ぎた
僕はここに居ちゃいけない人間なんだと思った
「今でも…夢にっ、見るんだ…
客に抱かれて善がる…僕の……藍姫の姿を…」
「智…」
数え切れない程の男達の欲望を
この手で、この身体で、受け止め続けて来た
「僕は…汚い…」
この呪縛からは当分抜け出せそうにない
どんどん卑屈になって行く僕を
潤さんは何も言わず、抱きしめてくれた
薄力粉にまみれた両手をじっと見つめる
“きっと皆も喜ぶよ”
僕のこの汚い手が作り出したものを、誰が喜ぶだろうか