第8章 ❦ SPECIAL THANKS ❦
❦ 翔Side ❦
「また来…!」
― パタン ―
「…」
言い終える前に強制的に閉められた扉
何度目かの仕打ちだ、それにももう慣れたけど
「俺、諦めないから…!」
届くはずもないと分かってはいても
これは扉の向こうに居るあの人への宣戦布告
諦めない
そう決めたんだ
来た道を引き返しながらスーツの内ポケットに入れたままのスマホに手を伸ばした
「充電切れてんじゃん…」
腕時計に目をやれば深夜12時をとうに回っている
連日の寝不足が祟ってそろそろ限界に近い
分かってはいるけど、あの人が首を縦に振るまでは…
濃紺だった筈の空の色は漆黒へと色を変えている
薄汚れた都会のビルの隙間からじゃ星は見えないけど
ふわっと吹いたぬるい風が帰るべき家へと背中を押してくれているようだった
「ただいま…」
家路に着くと、なるべく音を立てないように気遣いながらリビングの一番小さな灯りを点ける
そのままキッチンへ行き、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを乾いた喉に流し込んだ
「…っ、はぁ…」
生き返るー、なんて親父クサイ事を思いながらふと調理台に目をやると
潤の好みで選んだという真っ白なスクエア型の皿に、サラダとドレスのように巻かれた卵の乗ったオムライスと…
「翔の、アホ…?」
皿の上にケチャップで書かれた
“SHO NO AHO” の文字
潤のヤツ… 全く、可愛いんだか可愛くないんだか。
そんなのを見てしまったら居ても立っても居られなくて
ペットボトルを手にしたまま、寝室へと足を向けた