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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼


『和也へ


子供の頃にお気に入りだったおもちゃのピアノと
ピアノの本を和也に贈るよ

このピアノを弾いている時だけは
俺のことだけを想っていて欲しい
そして次に逢った時には
その成果を聴かせてくれ

辛いこともあるだろうが、待っていて欲しい
唇で交わした約束は絶対だ
必ず、また逢いに行くから…


和也
愛してるよ

心からの愛を…あの日の月に誓う。


翔』



漢字には全て振り仮名がふられていた

手紙を胸に抱くと
それまで抑えていた涙が溢れ出す



僕も貴方を愛しております
泣かないと決めたばかりですのに
こんな手紙を残されてはどうしたって泣いてしまう
泣いてしまうではありませんか…

逢いたい
貴方に逢いたい

その温もりに触れたいのです


「っ… 翔様っ…!」



僕は声を殺して泣いた


ひとしきり泣いて心が落ち着くと
“こどものバイエル”と書かれた本を手に取った
中を開くと
がくふのよみかた、と書かれたページに
翔様が教えてくださったドレミファソラシドの音がおたまじゃくしのように並んでいて
記号の意味なども詳しく書いてあった


かえるのうた
チューリップ
ぞうさん

キラキラ星もある


ページを進めていくと
少しづつ難しくなっていくようだ


朧月夜
聖者の行進


「あっ…」


目に止まったのは
“さくら さくら”という曲


この曲を弾いてみたい
翔様のお名前と同じ、この歌を…


鍵盤のド、の音の所にそろりと指を置く

〜 ♪


素敵な音色
おもちゃと言えども
きっと高価なものなんでしょう


このピアノの音を聴けば
一瞬であの日の夜に還れます
ありがとうございます、翔様…


褥部屋であれば
音が漏れることはほぼない
翔様を想いながら
夢中でピアノを弾いた



「さくら さくら
弥生の空は 見渡す限り
霞か雲か 匂いぞ出ずる
いざや いざや
見に行かん…♪」


はあっ…弾けた…


「弾けましたよ、翔様…」


胸がふわっと温かくなる
あぁ、なんて嬉しいのだろうか


“凄いぞ、和也”


満面の笑みで
翔様が褒めてくださった気がした


「翔様のおかげです」


“和也に才能があるからだよ”


「どちらも譲りませんね
では、お互い様ということにしておきましょうか」


クスクスと笑うと
想いに描く翔様も優しく笑った
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