第1章 かりそめの遊艶楼
❦和也side❦
深く刻まれた翔様の痕跡を
初見の客人に上書きされていく
今日お相手したのは
三人の殿方
一人はお若く
精力が旺盛で横暴だった
お二人目は
かなりお年を召した方
身体をあちこち撫で回しては
執拗に卑猥な言葉を投げかけてきた
三人目は無口で
行為というよりは作業
淡々と進むそれはまるで
お前は排泄道具だと言われているかのようだった
「翔様…」
誰に抱かれていても
思い出すのは翔様のことばかり
早く逢いたい
翔様に触れたい
その手で抱きしめて欲しい
早く…
早く帰ってきて…
なれどたった一日で
僕はこんなにも汚れてしまいました
それでも翔様は一月後にお会いした時
変わらず僕を愛しいと思って下さいますか…?
「和也様。少しよろしいでしょうか」
廊下に面した襖から
慧の声が聞こえた
「お入りなさい」
「失礼致します」
しゃがんで襖を開ける慧の後ろに
見覚えのある方が立っていらっしゃった
「貴方は…」
「こんばんは、和也。
俺のこと、覚えてるかい?」
「あっ…」
確か、このお方は
水揚げの日、翔様と共に楼にいらっしゃった方
「しょ… 櫻井様の…」
「うん。翔くんの友達の、松本。
翔くんから君にって、これを預かってきたんだ」
松本様から手渡された箱を受け取る
「これは…?」
「さぁ…? 中身は俺もわからないよ。
それから、これも。」
白い封筒を
スーツの内ポケットから取り出すとニコリと笑った
「確かに渡したからね?
じゃ、」
「松本様っ…!」
「…うん?」
「ありがとう、ございますっ…!」
松本様は僕の肩をポンと叩いて
部屋を後にした
翔様が、わざわざ松本様にお願いしてまで
僕に届けてくれた荷物
何が入っているのだろう
ドキドキしながら箱の中身を開けると
「あっ…!」
そこには
ダンスホールにあったピアノと同じ形の
古いおもちゃのピアノ
そして
『こどものバイエル』という本が入っていた
本の裏には
平仮名で『さくらい しょう』と書かれている
「これを、僕に…?
嬉しいです、翔様…
ありがとうございます…
ありがとう…」
心がじわりと温かくなった
渡された白い封筒を開けると
そこには一枚の手紙が入っていた