第7章 Eternal Burgundy
翔はランニングマシンを始めた
まぁ…俺にコーチしてくれとは言わないよな
それでも
翔の事だけ無視するなんて子供じみた真似も出来なくて
「櫻井さん、この後…」
振り返ると
「…おい! 速すぎんだろっ!!」
何故か、翔のマシンの速度は上級者向けの設定になっていて
俺は慌てて駆け寄り、停止ボタンを押した
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
ベルトに乗ったままへたり込んだ翔の背中を支える
「何やってんだよ!」
「ハァッ…ハァッ…」
「大丈夫かよ…?」
「ハァッ…ハァッ… …ゅん、」
「どうした…?」
「ハァッ…ハァッ… み…ず…」
「水な? 今持ってくるから」
手渡したペットボトルの水さえも上手く握れないくらい
翔の身体にはもう力が残っていなくて
「…っはぁ…… あり、がと…」
瞼がゆっくりと閉じられていく
「翔…? オイ、しっかりしろって!
翔! 翔!!」
「大丈夫ですよ。
脱水症状も起こしてないし、寝不足に疲労が重なった、ってとこでしょう」
「はぁ…」
目の前で翔が意識を無くして
…怖かった
翔が、消えてしまうんじゃないかって…
慌てて翔を抱き抱えて、救護室に運んだ
「起きたら水分摂らせてあげて?」
「わかりました」
「じゃ、お大事に」
先生に頭を下げて、ベッドですやすやと眠る翔を見つめた
翔の寝顔、久しぶりに見るな…
子供みたいな顔しちゃってさ
寝不足なら帰って寝りゃよかったじゃん
トレーニングしてく必要無くね?
だいたいさ、初心者が連日来んなっつーの。
「…んっ……」
翔の右手が何かを探すように空を掴もうとするから
何故だろう、俺はなんの迷いもなく
その手を掴んでぎゅっと握りしめた