第1章 かりそめの遊艶楼
「ちょっと悔しくて…意地悪した…」
「……なんだよ悔しいって…」
両手を離して潤の顔を見ると
そっちの方が泣いてしまうんじゃないかってくらい
切ない顔をさせていた
「もちろん、俺だって嫌だよ…
たった1回、会って話しただけなのに
…女の子以外にこんな気持ちが傾くなんて思わなかった」
いつも綺麗に整えてる髪形をぐちゃぐちゃになるまで両手で掻き回して
最後に額から後ろへ流しオールバックにすると
「…ごめん」
また謝って、息を吐き出していた
初めて見た潤の取り乱した姿に
悔しいと言った理由を再度、問い詰めることはできなくて
「…和也くんに渡しとくね」
そう箱を抱え、愛車に戻っていってしまう背中を
俺は見届けることしかできなかった
「翔、起きてるか?」
トントンと扉を叩く音と一緒に聞こえた父親の声
荷物を持ってドアを開けると、行くぞと手振りで伝えられて
「…はい」
覇気のない声を漏らした
「忘れ物ない?」
「大丈夫だよ、母さん」
「じゃ、行ってくる
家のことは全てお前に頼んだからな」
「はい」
玄関で家族らしい会話をし
運転手付きの高級車で、空港までいった
「おはようございます」
空港内では既に揃った幹部達が俺達を出迎え
「専務、お荷物を」
「いい…自分で預けに行く」
当然のようにあの美人秘書もいた
会社のこともあるだろうがこっちも目当てなんだろう
息子を前に不倫旅行…
呆れて何も言えなかった
飛行機に搭乗すると
早速座席を倒して寝るスタイルを決め込んだ
結局昨日は一睡もできなかったから
和也のこと、潤のこと
色んなことが頭の中を駆け回って…
…あの中身…喜んでくれればいいな
会ったら俺に…それとも一緒に…
1ヵ月後の事を思い描きながら
遠退く意識の中で、浮上し始めた飛行機の圧迫を感じた