第1章 かりそめの遊艶楼
「…もう一時間経ったのか
楽しい時間が過ぎるのは早いな…」
「ええ…」
これでもう暫く会えなくなってしまうのかと思うと
とても悲しくなった
「ふふっ…和也がそんな顔をしてくれるなんて
なんだか嬉しいよ、俺」
「だって…」
たったひと月
それに
また必ず会いに来てくれると
約束の口付けを交わしているというのに
「でもそんな顔されたら勘違いしちゃうよ…?」
「勘違い…?」
「和也も、俺のことを好きになってくれたのかなって…
好きだよ、和也
俺…お前のことが好きだ」
耳元で翔様の甘い重低音が響き
胸が鳴る
「人生で初めてだよ、告白なんかしたの」
「僕も初めてです、好きだなんて言われたのは…」
目と目が合うと気恥ずかしくて
とてもドキドキする
このままお別れするのでは
心残りになりそうだ
「翔様、今宵はもうお時間は無いのですか…?」
「時間…?
時間はあるが…」
「僕にあと一時間だけお時間をいただけませんか…?」
「いや、でも…
これ以上一緒に居たら決意が揺らぎかねないよ
今日は和也にピアノを披露して
一緒に月を見るだけにしようと決めてたんだ」
「…僕は明日から他のお客様のお相手もせねばなりません
その前に…」
その前にもう一度
翔様の温もりが欲しかった
一度目の時とは違う想いの僕を感じて欲しかった
「和也…」
「翔様…僕を抱いてくださいますか…?」
「いいのか…?」
「翔様が良いのです…」
翔様の手を取り
蜩の間へと向かう
「昨日の山吹の着物も良かったけど
その着物も和也にとても良く似合ってるな」
「ふふっ。嬉しいです」
緋色に沙羅双樹の華の柄が入った
シンプルな振袖
「脱がせてください、翔様…」
帯を解き
肩から着物を落とした
「翔様も…」
「あぁ。脱がせてくれるか…?」
僕を優しく布団に横たえると
ゆっくりと唇を重ねた
「好きだ… 好きだよ、和也…」
「好きです、翔様…」
この時の翔様のお顔を
僕は一生忘れることはないだろう
「ありがとう、和也…」
触れ合う肌が
僕の温度を高めて行く
「あぁっ…翔っ…」
硝子細工を扱うように
優しく
優しく
僕の身体が解されて
掌から
翔様の愛が伝わるのを感じた