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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼


「はぁっ…はぁっ…」

藍姫様が両腕を伸ばすと
その腕の中に吸い寄せられるように包まれた


「無理して飲まなくても、」

「無理はしておりません。
そうしたかったから…」


そうしたかった。
その言葉に嘘はない


「上手に出来ていましたか…?」

「ええ、とても…」

「良かった…」


藍姫様の胸に抱かれていると
幸せな気持ちになった



「和也ならきっと太夫になれる
だから…
希望を持って、ね…?」

「太夫になれば…僕は救われますか…?」


その質問に
藍姫様は答えてはくださらなかった






一緒に湯に浸かりましょう、と
風呂場に向かった


「お背を流してあげましょうね」

「いえ、僕にさせてください」

「では、交代で。」


暖かい湯を肩から流し
手のひらで優しく洗ってくださったから
お返しに僕も藍姫様の背を流した

白く細い背と
しなやかな動き
目の配せ方
これが世の殿方を魅了する所作なのだと感じる




湯船に入ると
藍姫様が窓を開けた

「月…」

今宵、月を見るのは二度目だ



「和也も月が好き?」

「ええ、とても。」




「心にも あらでうき世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな」




「それは…?」

「百人一首のね
三条院という人が詠んだ歌でね…」


「どんな意味なのですか?」




「心ならずとも、生きながらえていたならば…
この夜更けの月が恋しく思い出されるだろう」




「心ならずとも、」


「…そう。
自分の本意ではないとしても
生きていさえすれば、きっと…」




遠く月を見つめ
藍姫様は
どんな想いを馳せているのだろうか


そしてこの歌に
僕も共感する時が 来るのだろうか



並んで浸かる檜風呂の湯面に
月が浮かぶ

それを両手で掬うと
サラサラと零れ落ちた





心にも

あらで うき世に

ながらへば


恋しかるべき

夜半の月かな…
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