第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
「うわぁ…凄い。口の中でとろけるっ!」
「でしょ? 人気メニューなんですよ」
はふはふ言いながらビーフシチューを口に運ぶ
焼きたてのパンも美味しい!
このサラダも…オシャレだし美味いっ!
舌鼓を打ちながら
好きな映画や
好きな食べ物
どんな仕事をしてるとか
松本さんとの話は尽きなかった
「雅紀さんって言うんだぁ」
俺の名前を聞いた松本さんはなんだか嬉しそうで
「これからは下の名前で呼んでもいいですか?
僕の事も潤って呼んでください!」
“雅紀さん”と“潤くん”
俺たちはそう呼び合うようになった
「また来ましょうね!
中華が好きなら、餡掛け炒飯もオススメ!
それから…」
あれもこれもと勧めてくる潤くんがなんだかおかしくて
「次はお酒も飲みましょうね、雅紀さん!」
次の約束まで取り付けたりして
「ラストオーダーとなりますが、ご注文はございますか?」
「いや、大丈夫だよ、ありがとう」
そろそろ行きましょうか、と潤くんに声をかけられて
俺達は席を立った
「あっ、ちょっとトイレに…」
「じゃあ僕、会計してきちゃいますね?」
トイレに入り
ドアがパタン、と閉まった途端
「あっ…」
立っているのもやっとのような酷い目眩に襲われた
あれ…どうしたんだろ…
グワングワンと世界が揺れる
なんだこれ…
助けて…
誰か…
俺、まだ潤くんにお礼も言えてない…
言わなきゃ…
ありがとうって、言わなきゃ…
今度は俺が奢るからって
また会おうねって
楽しかったよって
出会えて良かったよって伝えなきゃ…
潤くん……
潤、く…ん……
壁にもたれ掛かり
ズルズルとへたり込むと
何かに引き摺り込まれるように意識が遠のいて行った