第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
「あの、手…」
「ああっ、ごめんなさい!」
松本さんが慌てて俺の手を離す
無意識だったのか?
「お腹空いてます? 何か作りましょうか?
あ、朝が遅かったからそんな空いてないか
じゃあ映画でも見ます?
相葉さんの好きなの選んでください!
俺、飲み物とか持って来ますから!
はい、これプロジェクターのリモコン!」
途端に饒舌に喋りだしたかと思ったら
バタバタとキッチンに駆けて行った
なんか松本さんの様子がおかしい
気のせいかな…
俺は壁に埋め込まれた棚の中から洋画のパッケージのケースを適当に取り出し
ソファーに座って渡されたリモコンの電源を入れた
「うおっ!」
天井から降りてきた巨大なスクリーンにビビる、俺
「お待たせしました!
映画と言えばやっぱりこれでしょ?」
キッチンから戻った松本さんの手には
トレイに乗った、キャラメルポップコーンのバスケットとコーラが2つ
キッチンから“ポン!ポン!”と弾ける音が聞こえていたのはそのせいか
松本さんはそれをテーブルの上に置くと
『この映画僕も好きなんですよね』
なんて言いながら
ディスクをプロジェクターにセットし
リモコンを操作して自動でカーテンを閉めて
俺の隣りにボスッ、と座った
ポップコーンを貪りながらスクリーンを見つめる
随分古い映画なんだろうか
音声も画質も良くないんだけど
なんだか凄く引き込まれる
主人公の心優しい青年と
その部屋に転がり込んで来た、心に傷を負った男が友情を育んでいく物語はまるで
俺と松本さんみたいで…
「二人はこの後どうなると思いますか?」
「どうなる、って?」
字幕スーパーを目で追いかける
“これ以上君に迷惑はかけられないよ
僕はここを出ていく”
“ここを出てどうするっていうのさ”
“…今までありがとう
君のことはきっと忘れないよ”
“待って…! 行くな!行かないでくれ…!
僕のそばにいて欲しい
僕には君が必要なんだ……”
松本さんの小指が
俺の小指に、触れた