第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
やっぱりここは俺の住んでいた町とは違ったんだ
おんなじ道の造り
なのに建っている建物は全く別で
信号の並びも
車線も
車のハンドルも左右反転していて
季節だっておかしくて
摩訶不思議なことだらけ
だけどそれをおかしいと思っているのは俺だけで
つまりこの町じゃ
おかしいのは俺の方なんだって
「なぜここに来たかったんですか?」
「えっと…」
松本さんに本当のことは言えない
「知ってる道っぽかったので…
いやでも、全然知らない場所でした
せっかく連れてきてもらったのに、すみません…」
知らない町に迷い込んだんじゃない
知らない世界に迷い込んでしまった
この世界にはもう
俺の住むアパートも
家族も
友達だっていない
「そっか…
どうします? 戻りますか?」
どうしよう
伊勢貝さんは、飴の効果は一日限りだって言ってた
夜になれば俺は帰れるのか?
元の世界に…
「はい…
ホントにごめんなさい
ご迷惑かけっぱなしで…
あっ、でも夜になれば帰れると思うんで…」
「えっ?」
「えーと、
迎えが来るかもしれないんで…!」
「そう…なんですね、」
咄嗟についた嘘に
落ち込んだように目を伏せた松本さんの横顔をじっと見つめた
そんな顔されちゃうと変な気分になるよ
俺達は来た道を戻って
松本さんの家に帰った
…終始無言。
松本さんが明らかに元気がないのは
夜になれば俺が帰ってしまうと思ってるからなのかな…?
「あの、俺…」
この気まずい空気を打破しないと!
「相葉さん」
「はい」
不意に名前を呼ばれてギクリとする
近いっ!
近いよ、松本さん!!
「迎えに来るのって、彼女とかですか?」
「ちっ…違いますけど…」
「じゃあ、友達?」
「あーっと…」
「ホントに来るんですか?」
「どう…でしょう、」
「来なかったら泊まっていってくださいね?
俺、大歓迎なんで!!」
俺の手をギュッと握ると
さっきまでの表情とは打って代わって
松本さんは子供のように微笑った