第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
“優しい愛に包まれたい”
と願ってあの飴を舐めた俺は
確かに今、松本さんの優しい愛に包まれている
願いが叶ったのか?と聞かれたら、そうなのかもしれない
だけど
なんて言うか…そういう事じゃなくてさ
恋愛の上での、ってことで願ったつもりだったんだけどな…
「どうかされました?」
「えっ?!
いや、どうもしないです!」
なんだか腑に落ちないまま
俺は残りのご飯を慌てて掻き込んだ
「ごちそうさまでした!
めちゃめちゃ美味かったです!」
「いえいえ
お粗末様でした」
ニコニコしながら食器を下げてくれた松本さんの後ろ姿をボーッと眺めていた
まさに上げ膳据え膳…
世の中の旦那さんってこんな感じなのかな?
「相葉さん、この後どうしますか?
店、行ってみます?」
「その前に…」
この町が本当に俺の住んでる町なのか確かめなきゃ
「図々しいんですけど、もし良かったら案内してほしいところがあるんです」
この辺りだけじゃまだ確信がない
だけど、うちのアパートがあるはずのところまで行けば…
「今日は休みですし、どこまでも付き合いますよ」
松本さんの好意に甘えることにして
ちゃっかり洋服まで借りて
俺は今ある疑問を明確にする為に行動に移す事にした
松本さんの車に乗り込んで目的地へと向かうと
昼間の景色は昨夜のそれとは違い
はっきりとした色形を映し出していた
右を見ても左を見ても、知らない景色ばかりだ
だけど、この道は知ってる…
「ここを左で」
左と言えば右に曲がる
左右の認識が反転していることにさえ注意すればきっと辿り着くはずだ
「この辺りですか?」
やっぱりそうだ
裏道を抜ければ
アパートの前の道に出た
それなのに
「なんだこのビル…」
アパートがあるべき場所には
見たことのないようなオフィスビルが建ち並んでいた