第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
❦ M ❦
広々としたソファーも
枕代わりにと用意してくれた大きなクッションも
恐ろしいほど心地よくて
あ、これ
一度横になったら二度と動きたくなくなるっていう
所謂ダメ人間になるやつだ…
普通さ、ソファーで寝たら
スプリングで次の日首とか腰ヤッちゃうのか常でしょ
それが、なんなのこれ
俺のベッドより寝心地イイんですけど…
肌馴染みの良いこのソファーに吸い込まれるように
変性意識の中を微睡んでいると
リビングのドアがそっと開いて
廊下の小さな光が漏れた
「相葉さん、やっぱりソファーじゃ申し訳ないからベッドで…
って、あれ? 寝ちゃったか…」
松本さんが申し訳なさそうに小声で俺に話しかける
ここで返事をしたら、また押し問答になりそうだ
どこまでお人好しなんだ、松本さん…
狸寝入りもどうかと思ったけど
仕方なく
ここは敢えて寝たふりを決め込んだ
「店でも居眠りしてたし
よっぽど疲れてたんですね」
頭の上の方で
囁くような松本さんの声が聞こえる
俺の顔を覗き込んでるんだろうか
は、恥ずかしい…
「相葉さんは一体、どこから来たんですか?」
どこからって言われたって…
「なんで…」
ん?
「なんでこんな気持ちにさせるんですか…」
…え?
「帰したくないなんて
どうかしてるのかな、俺」
帰したくない…?
えっと…それは俺に対して言ってる…?
松本さんの指が
俺の髪に優しく触れて
目にかかる前髪を掬うから
ドキン、と胸が鳴った
朝
コーヒーの良い薫りと
リズムを刻む包丁の音で目が覚めた
「あっ、起きました?
おはようございます」
「おは…ようございます、」
向けられた爽やかな笑顔に
昨日の夜の意味深な松本さんの独り言が重なって
どうした、俺
やだ、顔赤い…