第1章 かりそめの遊艶楼
『話、しましょうよ』
抱くのが全てじゃないと言った潤様
『これって一目惚れかなー…』
何人もの殿方にお会いしてきましたが、不思議なお方
初めてでした
話に没頭したとはいえ
褥部屋を使わなかったのも
最後まで抱かれなかったのも…
ですが、私の心には……
…楽しかった…穏やかな一時
ここに来る方々が、みな貴方のような考えをしていたら
こんな幼い子達が身体を売るなどという発想は…なかったのかもしれない…
櫻井様が今後、また指名をするのかは分からないけど
何度も寝た経験から言えることをその子に…
初めはそう…でも
この洋館の中で特に優しい雅紀さんさえ他の魅陰とは違う扱いをしてるような
優しさの分類が違うというか…取り分けその子のことを気にかけているように見えて
今日水揚げした魅陰、何かあるのか
どんな子なんだろうか…
なんでか落ち着かない気を静めて
蜩の間の襖に手を掛け、そっと滑らせた
「…藍姫様」
こちらを見ながら居間にちょこんと座る少年
畳に手を揃え、深々と頭を下げている前に座った
片手で顎を持ち上げてみると
なるほど…惹かれる顔立ちをしている
しかし…
「…ふ…酷いな」
「え…」
「私が来るまでずっと泣いていたのか…?
目が真っ赤だ、頬に筋もできてるし…」
でも良い瞳をしている
見つめられると吸い込まれそうな…
「…申し訳ありま」
「この唇は…櫻井様が?」
親指で傷をなぞると目を泳がせて
「……僕…が……」
再度泣き出してしまいそうな、切ない顔をさせる
「あ…」
思わず抱き寄せ、その子を包んだ
なんて細く…小さい
見世に並ぶ子達だって同じくらいなんだろう
最上階に位置付けられた部屋から
下に行く機会は減って…久しぶりに会った魅陰はこんな…
こんな身体で大人達の欲望を受けていくのか
「…自らを傷付けることは…お止めなさい」
残酷か
苦しさを、痛みを、それでなんとか逃がしているんだろうに
「辛く、苦しいのは…痛い程に分かります…」
こんな処へ…こんな事をしに
生まれてきた訳じゃないのにね…ごめん…
力いっぱい抱き締めずにはいられなかった
「……っ…藍姫、様…」
背中に回った手が私の着物をくしゃっと握って
和也が吐息混じりに嗚咽を漏らす