第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 智(藍姫)side ❦
「はぁ…今日は一層、っ…妖艶だな」
「ふ、あぁ…っ」
きっと、潤様につられて少し口にした酒のせい
未成年だから…律儀に止められたのに
楽しくなってつい呑んでしまった
「っは、あ…藍姫…」
激しい突き上げを受けてよがる私に、欲望の眼差しを向ける初老の殿方
どこぞの社長であろう…
私には知る必要などない
「は…っふ、ん」
「あぁそれ…イ、く…っ」
何度目だ
奥に熱が溜まっていく、この感覚を味わうのは…
「あ、あぁっ…」
遅れて私自身からも白い液体が吐き出される
「また来るよ」
「はい、お待ち申し上げております」
満足気に部屋を出ていったあの方は
ふわっと微笑んだ私の表情と
限界の寸前、中を軽く締められるのがお好き
常連客が悦ぶことは把握していた
初見の客でも、大体予想はできる
伊達に何人もの相手と寝た訳じゃない
ここで得た…私の能力とでも言おうか
それを駆使し、太夫と呼ばれるまでそう時間は掛からなかった
だけど…客人が帰った後、次の客人の為に
放たれた白濁を1人
浴室で掻き出すのがなんとも虚しく
「…は…っ…」
毎度そこで、込み上げてくる感情を押し殺していた
居間に戻ると部屋子が褥部屋を整えていた
いつもながらの光景にため息すら出ない
流した視線を帯に変え
軽く羽織っただけの襦袢の前を締め始めると
前回まで変わらず私を指名していた櫻井様が
なぜ水揚げの魅陰を指名したのか考えた
いつからか櫻井様に対してだけ
笑みも声も出さなくなった
そんな私が嫌になって、その子に飛び火したのだろうか
だとしたら申し訳ないことをした
初めての子に櫻井様は酷かもしれないから…
お世辞にも優しいとは言えない、歪んだお方
そして…
「…っ」
いけない…思い出してしまう…
動かしていた手を止め、ぎゅっと目を瞑った
「……慧」
「え…あ、はいっ」
普段あまり声を掛けないせいか
一呼吸遅れてパタパタと足音が近付く
止んだ音に瞼をそろっと上げ、部屋子の足袋を見つめた
「……和也は…どこの間でお相手を…?」
「あ…蜩の間でございます」
そうかと視線を上げていけば可愛らしい顔が目に映る
この子もいずれ紅を引き
私達と同じ世界に来るのか…