第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
「コーヒーごちそうさまでした
なんかホントすみません…」
ペコリと頭を下げて
握りしめた小銭をオーダー表と一緒にレジに出した
「いえ、サービスですから気になさらないでください
ちょうどお預かり致します」
レシートを受け取り、店を出ようとした時
「お客様」
ウェイターさんにまた声をかけられた
「お車でお越しではないですよね?
もしよろしければお送りしましょうか?」
「そんなっ…!
いいです、いいです!」
「でも、雪もだいぶ降ってきましたし…」
出入り口のドアを開けると
冷気が入り込んで来て
うっ…さぶっ…!
アスファルトには雪が積もっている
Tシャツにスウェット
足元は素足にサンダルでこの雪の中を歩いたら
確かに凍え死んでしまいそうだけど…
「これ以上ご迷惑おかけするわけにはいきませんので、」
心配そうに顔をしかめるウェイターさんから逃げるように
俺は店を後にした
「…どっち行きゃいいの?」
初めて見る景色
ここがどこだか見当も付かないし
方角もわからない
だけどまたお店に戻ることもできなくて
雪が深々と降る中、野生の勘で取り敢えず歩き始めた
…時間にしたら多分5分くらい
いや、もっと短いかもしれない
「ダメだ、凍え死んじゃう!」
意気込んではみたものの
あっさりと撃沈した
だけどこのまま路上で凍死とかまっぴらごめんだ
近くにコンビニとかないのかな…
ギュッと縮こまって辺りを見回していると
突然目の前に黒のレクサスがハザードを出して停まった
「大丈夫ですか?!」
あっ…さっきの店のウェイターさん…
「乗ってください!早く!」
ウェイターさんは車から降りてきて俺の腕を掴むと
無理矢理車の運転席に押し込んだ
え?!なんで運転席?!
と思ったら
車は左ハンドルだった
間違いなくレクサスなのに
なんで左ハンドル??